高血圧シリーズ

 当院に通院されている患者さんの約3分の2は血圧のお薬を飲んでおられます。寒くなると血圧は上がることから、気になっている方もたくさんおられると思います。血圧は少々高くても(例えば上の血圧が160mmHg程度、普段高めの人ならば180mmHg程度でも)頭痛やふらつきなどの症状が出ることは稀であり、慢性的に高い場合は基本的に自覚症状はないといっていいでしょう。しかし、長期に高血圧が持続すれば、脳梗塞や心筋梗塞など動脈硬化に関係する病気になる確率は確実に高まります。実は糖尿病や高脂血症も同じですが、症状がないからこそ恐ろしいといえるでしょう。
 今号から血圧についてのお話をシリーズでお届けいたします。第一回は家庭血圧についてです。

1)家庭血圧の意義
 当院では血圧が高い方あるいは高い可能性のある方には必ず血圧手帳を渡し、家庭血圧を測定してもらっています。診察のたびに私がしつこく手帳の提出を求めるものですから、ときにはプレッシャーに感じる方もおられるかもしれませんが(感じておられたらゴメンナサイ)、その理由を以下に述べます(手帳を忘れたり、測るのを忘れても決して怒ったりしませんのでご安心を)。

1.決まった時間に測ることで安定した情報を得ることができる
 血圧はそもそも変動すなわち測定値のバラツキが大きいものです。例えば人間ドックや健康診断あるいは診察室で緊張のため血圧が上がった経験をされた方は多いでしょう。カゼを引くなど体調の悪いとき、あるいは睡眠不足でも血圧は上がります。また少ししゃべっただけでも上がります(診察室で測定中に私が話しかけて怒られるときもあり、ショボンとしています)。もちろん家庭で測定してもばらつきはありますが、同じ条件で長期に測ると平均値は安定してきます。その値がその人の真の血圧値に近いといえるでしょう。

2.不必要な治療を避け、必要な治療を行う
 1で述べたように、たった1回の診察室での血圧が高いからといってお薬をもらっている人をたまに見かけますが、全くナンセンスです。診察室では高いが家庭血圧は正常な場合を「白衣高血圧」といい治療は不要です(白衣が黒色でも同じ結果だと思います)。一方、診察室では正常でも家庭血圧が高い場合は「仮面高血圧」といい治療が必要とされています。

3.「早朝高血圧」を見つけ適切な治療を行う
 早朝高血圧とは起床後1時間程度の血圧が高い場合をいいます。通常の高血圧よりも脳梗塞や心筋梗塞などによる死亡率がさらに高いことが知られており、最近では認知症との関連も報告されています。この大事な朝の血圧を測定するのは家庭以外では無理です。
ちなみにこの早朝高血圧の有効な治療法は確立されておらず、それを探るための研究(「SAGEYO study」)を堺市内の開業医が集まり私が責任者となって行っています。


2)測定方法について
 食事、飲酒、入浴などにより血圧は変動します。したがって、「同じ時間」よりも「同じ条件」で測定することが重要です。具体的な方法を以下に示します。

1. 条件:1日2回 (1)起床後1時間以内、排尿後、朝食前 (2)就寝前
*いずれも座位1-2分の安静後

2. 部位:上腕(手首式でもやむを得ませんがバラツキが多くなります)

3. 姿勢:カフが心臓の位置にくるように

4. 測定腕:原則的に利き腕と反対の腕。
但し左右差が20mmHg以上ある場合は常に高く出る側の腕で測定する。

5. 回数:1機会に1~3回(すべて記録する)

6. 頻度:1週間に少なくとも3~5回(診察前は連続5日間測定することが望ましい)

7. 目標値:日本高血圧学会の最新の高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では、家庭血圧の高血圧基準を135/85mmHg以上、正常血圧基準を125/80mmHg未満としています。この間の血圧値も正常血圧とはいえません。また年齢、疾病によって目標値は異なっています。